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2006年7月14日 (金)

金融機関に対する23条照会と損害賠償

金融機関が弁護士会からの弁護士法23条の2に基づく照会(通常「23条照会」と呼ばれています)に応じなかったことによって、損害賠償が認められるのかという判決(大阪地裁平成18年2月22日判決・金融・商事判例1238号37頁)がでています。

結論として一定の場合には金融機関に開示義務が生じるとしているのですが、その例外規範を定立する際に、プロバイダ責任制限法の発信者情報開示制度を参考にしているところが、興味深いです。

事案としては、ヤミ金融業者からの借り主の代理人弁護士の申し出により、大阪弁護士会が金融機関に対して、預金口座等の開設者の名称および住所等について23条照会を行いました(また、訴訟提起後送付嘱託も行っています)が、金融機関は口座開設者の承諾が得られないとして報告を拒否したため、報告拒否は違法であるとして金融機関に対して不法行為による損害賠償を求めたというものです。

争点

  1. 弁護士会から23条照会を受けた団体等は、照会を求められた事項について弁護士会に報告を行う法的義務を負うのか(調査嘱託についても法的義務を負うのか)
  2. 金融機関は顧客に関する情報について23条照会または調査嘱託により報告を求められた場合に、顧客の同意を得た場合を除き報告義務を免れるのか
  3. 上記報告義務を負うのは、いかなる要件を満たした場合か
  4. 上記報告を行わなかったことにより、不法行為に基づく損害賠償責任を負う場合があるのか

本判決は、争点1について、弁護士会等に対して法的義務を負うと判断しました。争点2については、金融機関が顧客に対して秘密保持義務負っていること、秘密保持により顧客との信頼関係を維持し業務を円滑に遂行する営業上の利益を有していることから、顧客の同意を得た場合を除いて、原則として報告義務を免れると判断しました。

あくまでも「原則として」ということなので、当然ながら例外があります。

争点3については、裁判により紛争を解決するための前提として相手方(顧客)特定のため、他に適当な方法がないときに、顧客の同意がないとして23条照会等の報告を拒否することは、裁判を受ける権利を損なうことになるので、銀行の営業上の利益との調和をはかる観点から、報告義務の範囲を解釈しなければならないとしています。

そして、その解釈の際には、いわゆるプロバイダ責任制限法の発信者情報の開示に関する規定の趣旨、理念を参考にするとして、次の要件を定立しています。

  1. 当該顧客の行為によって23条照会または調査嘱託によって当該顧客の特定に資する情報の開示を求める者の権利ないし法的利益が侵害されていることが明らかであるとみえること
  2. 当該情報が開示請求者の権利ないし法的利益の裁判制度による回復を求めるために必要である場合その他これに準じる当該情報の開示を受けるべき正当な理由があること
  3. 当該金融機関に対して当該顧客の特定に資する情報の開示を求める以外に当該顧客を特定するための他に適当な方法がないこと

限定された範囲とはいえ報告の義務を認めたことで、金融実務に対する影響は大きいでしょう。控訴されているようなので、控訴審の判断が注目されます。

個人情報保護法の対応の観点からすると、23条照会または調査嘱託によって顧客情報の報告を行うことは、まさしく法律(法的義務)に基づくもの(争点1)ということになり、個人情報保護法23条1項1号の「法令に基づく場合」に該当します。ただ、個人情報保護法上は法令違反にならなくとも、守秘義務違反(プロバイダであれば、通信の秘密)等の問題は別途出てくるわけで、金融機関にかかわらず23条照会等への対応を考える上で参考になる判決だと思われます。

他方、プロバイダ責任制限法の発信者情報の開示に対応した経験からいえば、特に要件1の「権利ないし法的利益が侵害されていることが明らかであるとみえること」の判断はなかなか難しいものがあり、プロバイダ(本件であれば金融機関)の手間、費用の負担は小さくありません。プロバイダや金融機関といったところの負担を軽減するような訴訟法上の制度の創設が必要ではないかと思います。

 

 

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コメント

はじめまして。この訴訟ですが、控訴されたのでしょうか。主文的には銀行の勝訴だし、判決理由的には情報開示を求めた側の勝訴なので、どちらも控訴しない(できない)と思ったのですが。

また、回答する法律上の義務があったが、正しく法律を理解していなかったので、過失がなく、損害賠償責任を負わない、という結論部分は、「法の不知は罰せず」と言っているようで、理解しがたいものがあります。

投稿: 匿名希望 | 2006年8月 3日 (木) 09時53分

匿名希望さん
コメントありがとうございます。

この判決が掲載際されていた金融・商事判例には、「控訴」と記載されていますので、控訴されていると思います。
なお、控訴ができるかどうかは、判決の結果から形式的に判断しますので、内容的に実質的に勝訴していたとしても、請求が棄却されている原告は控訴可能です。

結論部分は確かに違和感がありますが、他方、銀行の守秘義務はこれまで厳格に捉えられていたため、裁判所としてはバランスをとるための苦肉の策というか判断なのでしょう。「法の不知は罰せず」というよりは、回答拒否時の法の不存在を言っているのではないかと思います。

投稿: 北岡弘章 | 2006年8月 3日 (木) 20時17分

丁寧なご回答ありがとうございました。
これからも、ちょくちょく読ませていただきます。

投稿: 匿名希望 | 2006年8月 3日 (木) 20時38分

大変参考になりました。最終判決はどうなったのでしょうか?

投稿: 烏丸 | 2011年3月17日 (木) 14時45分

コメントありがとうございます。

今時間がないので、簡単に。
控訴審でもヤミ金被害者側の敗訴という結論は変わりません(最高裁で上告棄却、控訴審の結論維持)が、構成は全く違います。

まず、弁護士照会等に対する回答義務を認め、回答拒否に対する義務違反を認めました。ただし、義務違反はあるが、この義務は弁護士会等に対する公的義務であり、弁護士の依頼者等の個人の利益を侵害するものではないとして、不法行為責任を否定し、損害賠償請求を否定しました。

義務違反を認めなかった地裁判決とは大きく異なります。

控訴審判決は、平成19年1月30日判決(金融・商事判例1263号25頁)です。

投稿: 北岡弘章 | 2011年3月17日 (木) 17時12分

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